ソードワールド2.0『魔動都市に眠る神』キャンペーン
  mixiの「神奈川近県ソードワールド愛好会」というコミュニティで長月十五がGMとして行うキャンペーンの詳細設定です。
 冒険前夜
 レーゼルドーン大陸は《竜槍山脈》、その南部にひっそりと聳え立つ《マエナルス山》の麓から《灼熱の砂漠》を噛み千切るように南西に向かい《フェリス湿原》が――――そして、その湿原を東に、大海原を南に、魔動機文明時代の巨大遺跡が陸地に浸入してきた海水と砂とに飲まれた《ベレニケス大砂海》が広がっている。
 《灼熱の砂漠》は蛮族や幻獣が多数犇く危険地帯ではあるが、それでも人族の集落が点在しており、特にテラスティア大陸の《ロシレッタ》と海路での交易を行う《“砂海の港”アンティラ》は、砂海に埋もれた遺跡の発掘調査が功を奏していることから、数年前よりレーゼルドーンの新たな拠点となりつつある。

 しかし数日前、《ベレニケス大砂海》《フェリス湿原》との丁度境に、突如巨大な“都市”が現れた。六方を白壁で覆い、地上と中空との二層構造となった高度な文明を持つ――――《“魔動都市”オーヴェルセリネ》である。

 《アンティラ》より情報を受け取った《カシュカーン》“姫将軍”マグダレーナは、聴くや否や顔をしかめる。
 ただでさえ《“霧の街”ミストキャッスル》《ヴァルクレア城》の脅威に歯噛みしていると言うのに、そこに突如魔動機文明紀を髣髴とさせる巨大都市が現れたときた。それははたして単なる遺跡なのか、《アンティラ》の発掘調査団が眠っていた遺跡を誤って起動させてしまったのか、それとも、蛮族が支配する魔境なのか――――。

 マグダレーナの決断はそれはそれは迅速なものだった。翌日には《カシュカーン》《ハーゼ》を含む《ダーレスブルグ公国》全土と《ルキスラ帝国》北部、《フェンディル王国》北東部の冒険者を募る書簡を送り届けた。

“レーゼルドーン大陸にて詳細不明の大都市が突如現れた。
 これを調査する冒険者を大至急手配されたし。報酬は弾む”


 蛮族から街を護るための兵力は割けない。だからマグダレーナは、我こそはと言う冒険者を求めたのだ。見事生還を果たし、都市が一体何であるのか、何故出現したのか、そして何のために現れたのかを突き止めることが出来た者には、相応以上の報酬も約束した。勿論、冒険の支度金、所謂前金も弾んだ。しかし逆にそれは、蛮族が犇く大陸の未知なる都市に対する恐怖感を煽りもした。

 それでも勇敢なる者達は名乗りを上げた。次々と送り出していく中、一月が経った。都市へと向かった冒険者の数は百には満たなかったが、マグダレーナは十分だと思った。
 そして、最後の冒険者達が、未知なる都市、《“魔動都市”オーヴェルセリネ》へと向けて《カシュカーン》の街を旅立った。
 導入@
導入@:PCは《カシュカーン》にて、マグダレーナの依頼を受け、未知なる都市の視察に向かう。

 * * *

 待たされる時間と言うのは、いつの日も長く感じるものだ。
 《カシュカーン》の砦の待合室は、踏み込んだ時とは打って変わって閑散とした状況になっている。
 理由は簡単だ。次々と冒険者が《“魔動都市”オーヴェルセリネ》へと旅立っていくからだ。

 また一組が呼ばれ、騎士の案内を受けて扉の向こう側へと去っていく。残されたのは一組、そう、自分達だけである。

 正直、面接があるなどとは聞いてなかった。《カシュカーン》に行って、前金を貰って旅立つ。それだけの、シンプルなものだとばかり思っていた。
 よくよく考えれば、これだけの人と金が動くプロジェクトだ。そして世の中には、依頼者の期待を裏切って、前金だけで生活する阿漕な冒険者もいると言う。そう思い出して、挑戦者は自らがいかにのほほんとした空気の中で生きてきたかを感じた。

「君たちで最後か。待たせたな」

 奥の部屋に通されると、挑戦者はまたも驚いた。自分の考えではそこにはマグダレーナがいて、彼女が直に面接をするものだと思っていた。
 そこには、見たことも無い風貌すら聞いた事も無い、白髪の老騎士がいた。

「長らく待たせて済まないね。私の名はシグナス・フォルナックス、よろしくね」

 老騎士はうやうやしく頭を下げた。挑戦者も、その雰囲気に飲まれて頭を下げる。それから少しの間、任務に関する様々な説明を受けた後、過去の冒険のこと、冒険者になった経緯、どうしてこの依頼を受けようと思ったのかなど、質問攻めにされた。

「なるほど、面白いのう。噂は、人を違えぬというが・・・」

 老騎士は捲っていた書類をまとめ、テーブルをトントンと打っては縁を揃えた。
「了解した。それではすまんが、我々の代わりにあの《“魔動都市”オーヴェルセリネ》の視察に行ってくれんかの」

 その言葉と共に、老騎士の傍らに立っていた騎士が部屋の隅から木箱を持って来てはテーブルの上に置いた。中から取り出したのは、前金である5000ガメルと、十日分の保存食、現地までのおおまかな道筋が記された簡素な地図だ。何しろ現地まで徒歩で十日はかかる。しかも道中は特に目印となる何かがあるわけではなく、そう考えると十日分の食料と言うのは不安に駆られる。もう少し買い足しても損は無いだろう。

「御武運を」

 騎士に見送られ、挑戦者達は砦を後にする。向かう先は冒険者の店だ。そこで装備を整え、万全の状態でまずは《ハーゼ》へと向かう。ハーゼからは地図の通りに、まずは《メンサ平原》へと向かい、《フェリス湿原》から《“魔動都市”オーヴェルセリネ》に乗り込む算段だ。説明によれば、蛮族の待ち伏せを防ぐためにも、いくつかのルートがあるらしいが、その中でも最もシンプルなルートなのだとか。

 そして翌日、挑戦者達は《カシュカーン》を旅立った。
 導入A
導入A:PCは《“砂海の港”アンティラ》にて、商人アルゴの依頼を受け、《カシュカーン》へと物資の輸送を護衛する。

 * * *

 《“砂海の港”アンティラ》最大の冒険者の宿《砂海の雫亭》では一人のエルフが困り果てた顔で頭を抱えていた。
 アルゴという名の彼は商人であり、《ロシレッタ》との交易で仕入れた商品の一部を《カシュカーン》へと運搬する仕事を生業としていた。

 砂海や湿原、平原を通る《カシュカーン−アンティラ間交易陸路》は比較的蛮族や幻獣の脅威の及びにくい場所ではあるが、それでも危険が無いわけでは無く、そのため彼は運搬のたびに冒険者を雇っていた。五度目の運搬からは常に同じ冒険者を指名してきた。気も知れ、心強くもある、そんな彼らを頼りにしていたし、気さくな彼らとの旅は楽しかったのだ。

 しかし此度は勝手が違った。いつも指名していた冒険者達がいないのだ。亭主に聞くと、何でも他の冒険者達も揃って《カシュカーン》に向かったとのこと。腕の立つ冒険者達がこぞってそっちに向かったものだから、駆け出しに毛が生えた連中はいつもより割りの良い仕事に我先にと飛びつき、後に残ったのは冒険者を始めてからまだ一月も経たないような駆け出しも駆け出しと――――あまり仕事を頼みたくない、というよりも、あまり信頼のおけない神官戦士が一人。

彼女の噂は《アンティラ》の冒険者たちの間では割りと有名だ。名を“不浄なる戦乙女”レクシィ――――よくもまあそんな大仰な、それも不吉な二つ名を通すものだ。
 騎士剣と身体に不釣合いな大きな盾を手に金属鎧で身を固め、蛮族や幻獣との戦闘が始まれば我先にと駆け出し未熟な剣を振り回す。神秘を呼び起こす秘蹟の才能はあるようだが、しかし相手の力量や戦況の有利不利も見抜けない戦闘の素人だ。勇ましさこそ評価に値するが、しかし彼女と旅をともにした冒険者達は大概「命がいくつあっても足りないよ」と口にする。
 しかも、噂によると形勢の不利を察した仲間に見捨てられ、戦場に一人残されて蛮族にとっ捕まり、嬲り殺しにされたと思えばその遺体を宿敵である“不死神メティシェ”の暗黒神官に引き取られ、戯れに蘇らされたのだとか。それ以来、彼女の首筋には奇妙な紋様のような痣ができたのだとか。

――――なんて、運が無いんだ・・・

 アルゴは深く溜息を吐いた。ぶち上げてしまえば、こんな奴など雇いたくない。アルゴは自分の種族が人間でないことにはげしく後悔した。人間ならばこんな時、自らに降りかかる災厄を天恵へと変えてしまえるのだから。
 しかし。

 カラン、カラン――――来客者を告げるドアベルが鳴り、冒険者と思われる姿をした者が《砂海の雫亭》に入ってきた。
「おお、いらっしゃい」
 亭主も心なしか“助かった・・・”という顔と声だ。もちろん、全面的に押し出しているわけでは無いが。
 アルゴは顔を上げ、待ちかねた来客者を見るや否や椅子から飛び上がった。そして、亭主が来客者に彼の依頼を紹介するよりも早く捲くし立てる。
「依頼を受けてくれないか!?」
 導入B
導入B:PCは《“魔動都市”オーヴェルセリネ》の住人(下層市民)であり、決起集団“ロストサンズ”の集会に偶然居合わせる。

 * * *

「このままでいられるかよ!!」
 誰かの怒号が響いた。目を向けると、一人の青年を囲んで、十数人の若者たちが集まっていた。
「一体俺達が何をしたって言うんだ!?どうして俺達が薄汚い蛮族になんかに媚び諂わなきゃいけないんだ!?」
 怒号は続く。
「そうだろ、兄弟!?」
 声に続いて、オオーという結束の雄叫びが若者達の口から上がる。その勢いに、気付けばそこで足を止めてしまっていた。

 思えば、それが悪夢の始まりだったのかもしれない。いや――――そもそも、この街に来着してしまったことこそが、悪夢そのものだ。

 《“魔動都市”オーヴェルセリネ》――――ちょうど一年前に《灼熱の砂漠》に現れた、未知なる都市。
 《“砂海の港”アンティラ》に生まれ育ち、気が付けば遺跡を探索したり、蛮族の脅威を打ち砕く冒険者を生業に生きてきた。《ベレニケス大砂海》は魔動機文明時代の遺跡に富み、《アンティラ》自体もその恩恵に肖り、発掘調査でのし上がった交易拠点だ。《ベレニケス大砂海》から《フェリス湿原》、そして《メンサ平原》を通る交易路も、比較的安全とされているがそれでも脅威が全く無いわけではない。だから、この界隈での冒険者の仕事というのは、食いっぱぐれの無い安定したものだった。勿論、命の保障は無いのだけれども。

 そして去年のちょうど今頃。《砂海》《湿原》、そして《砂漠》の交じるポイントで、新たな遺跡が見つかったという噂を聞いた。仲間と顔を見合わせ、我先にと、新たな冒険に胸を躍らせて走った。
 ああ、もう――――それが間違いだった。

 遺跡を目の前に、群がる蛮族の強襲。抵抗する間もなく砂に顔を押し付けられ、剣は痛みでもう握れない。
 気が付くとそこは石壁に囲まれた小さな部屋。ただ一面、石ではなく格子で鎖された――――考えるまでも無く、それは牢獄。
 格子の向こう側では、覚醒に気付いた大柄の蛮族。
「気が付いたか脆弱者」
 蛮族は椅子から立ち上がり、視界の外へと消えていく。静寂の中仲間を起こし、やがて蛮族は舞い戻ってくる。先程までの一人ではなく、彼と同じく屈強な肉体の蛮族数名と共に。
「来い。レグルス様がお呼びだ」

 蛮族に囲まれ案内されるがままに。開かれた扉をくぐると、そこには円卓と、そしてその向こう側に座る、堅牢な鎧に身を包んだ騎士風の蛮族。見るからに、それは率いる者だった。

「何、取って食おうなどというつもりではない。君たちがどのような趣で我々に近付いたかは知ぬが、もとより、そんなことはどうでもいい瑣末事。大切なのはこれからのことだ――――我々は、君たちを同胞として受け入れる」

 奇妙な台詞だった。蛮族が人族を、それも敵対する冒険者を、同胞として受け入れるとは――――。
 誰も、その言葉に首を振らなかった。知っている、振れば、この命が無いことくらい。だから、その首輪も受け入れた。

 それが、始まりだった。

 追憶から現実へと引き戻す、怒号と悲鳴。気が付けば、先程の若者達を、倍の数の蛮族が囲んでいた。
 慌てて、辺りを見渡す。それは人垣の向こう側に確かに存在していた――――“監視者メシエ”だ。

 黒いフードとマントに身を包み、不穏な空気を醸し出す仮面で顔を隠す、人族とも蛮族とも知れぬ謎の者。“監視者”の名の通り、都市で犯罪や決起があった際に騎士団に報告する、この都市での法の番人だ。あれに見つかっては、どんな巧みな斥候でさえ逃げ果せることは出来ない。

「大人しくしろ!」
「ふざけるな!俺達は、自由を取り返すんだ!」

 抵抗は空しく――――そして、蛮族はこちらにも向かってくる。偶然その場に居合わせ、留まっていた君達を、蛮族は仲間だと思ったようだ。
 追憶が繰り返される。また、あのほの暗い牢獄へと――――しかし今度は、命の保障があるか解らない。この首輪は――――未来は。果たして、閉じてしまうのだろうか。
 導入C
導入C・・・PCは≪アンティラ≫にて、魔動学者バイエルより遺跡調査の依頼を引き受ける。

 * * *

 カシュカーンで広まった都市の噂とは関係なく、魔動学者バイエルの研究は滞りなく今日も続けられる。
 ≪アンティラ≫のすぐそばには≪シルシン≫という、天ではなく地下に伸びる塔の様な遺跡があり――――というよりも、≪シルシン≫という遺跡が発見されたからこそ、≪アンティラ≫という街が生まれたのだ。

 そして≪シルシン≫という遺跡だが、この魔動機文明時代に建設された巨大な魔動装置は、海水を汲み上げて真水に蒸留する役割を持っていたことが最近になって解った。 それを解き明かしたのが、この魔動学者バイエルなのである。

 カシュカーンはラザラーグ家という高名な魔動技師の系譜に生まれ育ち、若い頃は冒険者を稼業として生計を立てていた。
 迫り来る魔動機兵たちを自慢の銃捌きで打ち払い、数々の仲間と共に広い世界を渡り歩いた。

 冒険者を引退する頃には彼の名声は膨れ上がっており、遂にはカシュカーンのお抱え学者という地位を手に入れた。もともとラザラーグ家は貴族であり、しかしそのように日の目にあうことは何十年も無かった。

 それからというもの、彼の子や孫の代の人間はカシュカーンの有能な騎士や魔術師、魔動技師へとなった。
 彼等の肉体を強靭に仕上げ、彼等に崇高な意志と精神を齎したのも、何を隠そう自分であると彼は言う。

 現在はカシュカーンからアンティラに身を移し、アンティラ周辺の遺跡群を調査する日々を送る。
 現役ほどの技は無いが、それでもまだ銃の腕前は健在だ。

 彼は言う。
“私は、好奇心と言う悪魔に魅入られた。
 私は、探究心と言う邪神に魅入られた”


 ――――そんな、彼の語る昔話や自慢話を、小一時間ほど聞いた。

 はっきり言って、うんざりしている。

 シルシンがポンプであり蒸留器であるという発見の話はもう三回もループしているし、彼の話に愉快な誇張表現が所狭しと犇いているのは、この辺りの地理に詳しくなくとも理解できる。

(・・・はやく、依頼の話に移りたいんだけどなぁ)

 その願いが叶えられたのはなんと三時間後、しびれを切らしたパーティのリーダーが強引に話をまとめ、バイエルが口を挟む隙を与えないまま話を進めたからである。

 窓の外を見るともう夕暮れが迫っていた。
「――――と、私はとても忙しい身なのだ。だから、私の代わりにシルシン遺跡の調査をお願いしたい」
「調査って言われても、俺たちは冒険者だ。探索や宝探し、蛮族退治ならわかるけど・・・調査って、何するんだ?」
「いや、簡単だよ。シルシン遺跡の下層には、いまだ動き続ける魔法生物が住処を護っているんだ。
 我々としても、それを何とかしないとそこから先の調査が出来なくてね。
 ちなみに私は、あのシルシンと言う遺跡の役割上、どこかに蒸留した真水を送り出す通り道があると踏んでいるのだが、それが下層部分にあるのではないかと・・・」 「話が長いよ、おっさん。つまり、その魔法生物を倒してくればいいんだろ?」
「まぁ、それが君たちに出来れば願ったり叶ったりなんだが・・・もし無理なようなら、どのようなものが、どれくらいいるのか、その辺りを出来るだけ詳しく調査して欲しい」

 異論は出なかった。思ったよりも簡潔な内容だったからだ。

 そして君たちパーティは貰った前金で身支度を整え、次の日の朝、魔動塔シルシン遺跡へと踏み入った。

 それが、悪夢の始まりだとも知らずに。
 導入D
導入D:PCは《“魔動都市”オーヴェルセリネ》の住民である。

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